総選挙が過ぎて一週間もたった頃、郵便受けに差出人も宛名も書いていない封筒が入っていた。普通なら開けずに捨ててしまうところだが、その日はどうしたものか、中身を読んでしまった。下らないものだが、笑い話のたねに書き写してみよう。
反抒情詩宣言
マニフェストですよ、今流行りの。
もう抒情詩とは関わりません。
三年以内に抒情詩は撲滅します。
撲滅できなければ、政治家はやめます。
なーんちゃってうっそぴょーん。
うちらは政治家なんかじゃないもんね。
だから、撲滅はしないけど、
私たちは抒情詩には首を突っ込みません。
勘違いしないで欲しいんですけどね、
私たちにも思いがないわけではないんです。
当たり前でしょ?
思いのない人間なんていませんよ。
ただ、
思いを語る人と
語らない人がいるだけなんです。
思いを語る人は、
語らない人よりも思いが優れているので、
思いを語れるようになったのでしょう。
あるいは、語ろうとしているのでしょう。
(まだ聞いてもらえていない人も混ざっているからね)
でも、優れている思いを語ろうとする限り、
自分よりも思いが優れていない人がいることを、
前提としなければなりません。
そういうのすごーくやなんだよねえ。
ですから、私たちは抒情詩とは関わらないことを、
ここに宣言いたします。
抒情詩をやっている人たちは、
勝手にやっていてください。
こんなものを書くやつは、抒情詩なるものを書いたことがあるに違いない。ひょっとすると、認めてもらいたかったけれども認めてもらえなかったのでひがんでいるのかも。しかし、これは一体何だったのだろう。一軒一軒の郵便受けにこれを投函していったのだろうか。ほとんどの家は、抒情詩とやらとは無関係なのに。それとも、私がこっそり詩を書いていることを知っていて、嫌がらせするつもりだったのだろうか。いずれにしても、一人称として複数形を使っているので、この文書が何らかの結社の「マニフェスト」だったことは間違いないようだ。