炭酸分子



九月一五日
夢のなかで映画監督になっていた。なりたいと思ったことのない職業なのに不審なことだったが、今日は作品の公開日なので、まわりの人々が成功を祈ると声をかけてくる。自分でも、是が非でも成功させたいと気持ちが盛り上がってくるが、作ったわけではないのでどんな映画かわからないまま夢が終わった。

九月一七日
激しい狐の嫁入りのあとは、本格的に降るぞという雰囲気。激しいというのは、思い切り晴れているのに、じゃぶじゃぶと降っていたので。ポツポツくらいにしとけよ。

九月一八日
最近の蚊は秋口に元気になるようだ。連日刺されていると慣れてきて、ときどきは腕に留まっている蚊に気付くようになり、さらには撃墜できることも。しかし、撃ち落しても腕に血がつくときはもう手遅れで、蚊にとっても私にとっても残念な結果になるだけだ。

九月一九日
正力松太郎はCIAにプロパガンダの進捗状況を報告していた。彼は日本国内に原子力研究が根付くことなど望まず、日本国内で原子力の平和利用の既成事実を作ることを望んだという。いったい何がやりたかったんだ?

九月二一日
風の音のほかに、遠くでピーと笛を吹くような音。木造家屋の2階は地震のように揺れている。今こうして文字を打っているディスプレイも揺れている。ドアががたがた鳴っている。さすがに気持ちが落ち着かない。

九月二一日
嵐が去ったので犬を外に連れ出した。空は晴れて星が出ている。風はほとんどない。空気は生暖かいものに置き換わっている。秋の虫の声に混じってぶつぶつという音が聞こえる。近くの高圧線の鉄塔から聞こえてくる音だ。初めて聞くものではないが、今日はやけに耳に残った。

九月二二日
歌舞伎は好きで見に行っているのだが眠くなる。たとえば寺子屋の最後。主の遺児を守るために身代わりを殺した夫婦、それを予想して身代わりを差し出した夫婦が、死んだ子のために焼香をする。省略なしで四人が順に完全な焼香をする。大切な場面なのだろうと思うけど、三人目あたりで寝てしまった。

2011年9月



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