桜の方

布村浩一



窓の向こうの桜がきれいだ 夕方 白い桜 ふくらんでいる 大きい いっぱい 1500の桜がふるえて こちらを向いている 行列 まっすぐ歩けない 大通りは人間たちであふれあふれ 大声でしゃべりながら 人間たちは 靴で 視線で 身体をすれ合わせながら 桜の木の下を通りすぎる 叫びながら男の子が走り 髪を人形のように切っている女の子が 紙を落とし (パンフレットのようなもの) メガネをかけた中年の女が立ち止まっている(腕を組みながら) 町はさわがしい 行列の速度が 12度の気温が 混ざりあって ぼくはウトウトと眠りそうだ コーヒーショップ・ドトールで 21人の人間は 高い声で 今日のことを話している 注文したコーヒーと 天気 ケーキと 赤い服  あと七日の 入学式 そんなことを いつまでも 話している ぼくはこれから 東の方の二丁目の陸橋に行く この橋は 映画で ぼくの好きな女優が 自転車に乗って  渡った 彼女はただ  ゆっくりと ペダルを漕いだのだ

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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