いいことを教えてやるよ、 目をつぶってそのロープを握ってみな、 と言われて、 言われるままにロープを握ったのは、 眠くて頭がぼうっとしていたからかもしれない。 上から引っ張る力を感じてしばらくすると、 もう目を開けていいよ、 と言われた。 すごいだろう、 わずか十秒で 千メートルまで安全に上がれるようになったんだ。 それを聞いて、 へー、すごいなと思ったのは、 やはりよほど頭がぼんやりしていたのだろう。 しかし、それでも何か気になって、 真上に向かっていた視線を 少しずつ下げていった。 視界の下の方に小さな家々がちらりと映ったとき、 心底ぞっとして、 手を離したくなった。 怖いというのは、 そういうことなのだろう。 やばい。 間一髪手を離す前に目を開けた。 それが夢から覚めるもっとも確実な方法だから。 いつになく目覚めがよくて、 まだ寝ていたいとは全然思わなかった。2012年9月